about?

・更新未定です
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 長い旅路の末、男はついにここまでたどり着いた。幾多の犠牲を払ったことか。数多の同士の屍を乗り越えここまで歩んできた。多くのものは戦場で散っていった。この城までたどり着いた四人の仲間も男のためにその身を挺した。あるものは多くの魔物を一人で食い止めるために、またあるものはトラップから仲間を逃すために、そうやって一人また一人と減っていき、ついにここまで辿り着いたのは男ただ一人だった。

男もまた、満身創痍である。伝説の刃を振るうその腕は自らの赤い血と魔物の青い血で、紫に染まっていた。魔物すら恐れると云われるその顔には大きな傷跡がひとつ入っていた。数多の戦場を駆けたその足は数多の傷に彩られていた。身体中どこを探しても無事な場所などひとつもなかった。

それでも男がここまで歩んで来た理由はただひとつ。数多の同士の、四人の仲間の、力を持たぬ民たちの希望だったからである。勇者、その名にかけられた大きな期待を男は一身に背負っていた。魔王を倒し、魔物に怯える人々のいない世界を作る。その無謀とも思える願いを適えるためにここまで来た。途中何度も挫折しそうになった。何度も地獄を見た。幾多の屍を踏みしめた。死に掛けたことだって、一度や二度ではない。

それでも男――勇者はついに魔王の城、その最奥にある魔王の間の目の前についにやってきたのであった。紫に染まったその手で静かに扉を開ける。厳かな飾りのついた禍々しいその扉は音もなく開いていく。


そして、そこにいたものは……。


そこには誰もいなかった。おそらく、魔王の玉座と思われる骸骨をあしらった巨大な椅子の上には誰もいない。勇者は左右をみるが、やはりなにものの姿もなかった。魔王はおろか、一匹の魔物すらいなかった。

「これは……罠か?」

 いつでも剣を抜けるように構えながら静かに部屋に入っていく勇者。警戒は怠らない。左右はもちろん、床や天井にも注意を配る。部屋の四隅、見えにくい位置に隠れているものがいるかもしれないから、そこは特に注視した。

それでも如何なる気配もその部屋にはなかった。気配だけではない。如何なるトラップも見られない。床が抜け落ちることもなく、天井が落ちれくることも、壁から毒矢が飛んでくることも、催眠ガスが湧き出ることもなかった。当然である。この部屋は魔王のための部屋。絶対的な存在である魔王にはそのような罠は必要ないはずである。

そして、勇者は玉座までなにごともなく辿り着いた。そこには一枚の紙が置かれていた。


『もう私は疲れた。実家に帰ります。魔王。』






執筆日:2010-12-11
公開日:2010-12-12
加筆修正日:2010-12-12
執筆者:元伊六
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