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『放課後、体育館裏に来い』
彼の下駄箱にその手紙が入っていたのは今朝のことだった。比較的不良の多い学校でありながら、彼は奇跡的に平和な日々を送っていた、この日までは。目立たず、目を付けられず、影のように空気のように毎日を過ごしていた。

 最近、番長と呼ばれる不良のリーダーから睨まれることが増えたが、それでもこの日までは、彼に直接接触してきた不良はいなかった。番長の名が書かれた、その手紙が来るまでは。

「てめぇ、逃げようとしてただろ」

気が弱く、腕っ節に自信のない彼は当然のように逃げ帰るつもりだった。しかし、下駄箱の前で待ち伏せしていた不良たちに捕まっていまい、両脇を挟まれどこかへと連れて行かれることになった。もちろん体育館裏だろう。

「あ、あのどこに……?」
「あぁ? 体育館裏に決まってるだろうが」

 左側を歩く不良がイライラした様子ですごんだ。

「ぼ、僕がなにかししましたか?」
「んなことしらねぇよ。連れて来いって言われただけだ」
「しっかし、番長も甘いよな。無傷で連れて来いとか」

 一歩、また一歩と体育館裏へと近づいていく。彼は、両脇の不良の威圧感でなにか喋っていないと息が詰まりそうであったが、恐怖でうまく口が動かなかった。両脇の不良への怖さもあったが、それ以上にこの場にいない番長への恐怖が大きかった。噂はいろいろあった。抗争中の学校の不良を一人で全員病院送りにしたとか、彼を補導しようとした警官は次の日から行方不明になっているとか、暴力団と繋がっているとか。真相は定かではなかったが、彼にとっては番長に呼び出されるのは死刑宣告と同じようなものだった。

番長に対してなにかしてしまったのか、やはり逃げるべきではなかったのか、自分は生きて帰れるのか、番長の怒りを買うようなことをしたのか、逃げることは出来ないのか、どこで選択肢を間違えたのか、などといった事が彼の頭のなかを駆け巡っていた。最後のひとつの答えは、間違いなくこの学校に進学したことであるのは彼でもわかったが、あとの疑問はついに答えが出ることはなかった。

「遅かったな」

 低く、威嚇するような機嫌の悪い声が響いた。番長の声だった。いつのまにか体育館裏にまで連れてこられたようだ。番長の顔は真っ赤になっており、彼の目には怒ってるように映った。

「お前ら、もう帰っていいぞ」

 不良たちが見えなくなった後、番長は思いっきり息を吸い込んだ。その顔はさっきより赤くなっていた。耳まで真っ赤だった。


「好きだ。付き合ってくれ!」
 低く、威嚇するようなしかしどこか照れを含んだ声が響き渡った




執筆日:2010-06-27
公開日:2010-10-19
加筆修正日:2010-10-19
執筆者:元伊六
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