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 街を甘い匂いが包んでいた。年に一度、主に女性が男性にチョコレートを送る日が今年もやってきた。最近は、同性間での交換や、男性から女性へプレゼントということも増えてきてるが。

 しかし、万人がいい思いを出来る日ではないのもまた事実である。意中の男性に受け取り拒否される女性もいれば、義理チョコすら一つも貰えない男性もいる。

 小さな街に住む少年もそんな1人だった。物心がついてからこの日にチョコを貰ったことは一度もなかった。本命はもちろん、義理すらも。父子家庭で一人っ子の少年は、最後の砦である身内からのチョコすらもらったことがなかった。彼にとって、この日は一年で一番憂鬱な一日であった。

 待ってるだけではダメだ。そう思い、自ら憧れの少女のためチョコを作った今年もやはり憂鬱な一日になりそうな朝だった。登校してくるまでの気合はすっかり萎えていた。

 少しでも周りに不審に思われないよう、いつもと同じように遅刻寸前に教室入りした。それが間違いだったのかもしれない。
 
 少年が廊下を歩いてるとき、教室から憧れの少女の声が聞こえた。
「今年はみんなの分作ったから、よかったらどうぞ」

 どうやら、クラスメイトにチョコを配ってるようだった。少年も少し期待した。

 少年が教室に入ると、憧れの少女と目が合った。しかし、すぐに目線をそらされた。ほとんどのクラスメイトの手には、小さな赤い箱があった。少年の手にもその箱が渡されることはなかった。

 少女は、少年と目を合わせないまま席につき、そのまま授業の用意を始めてしまった。

 少年はショックを受けた。自分だけチョコを貰えないなんて、嫌われてるのだろうか、と落ち込んだ。

 
 あれこれと悩んだまま時間は過ぎた。少年はなんども少女の方を見ていたが、少女は故意に視線が合わないようにしてるようだった。

 
 そして、結局少年はチョコを渡せないまま放課後になってしまった。もう渡す気はなくなっていた。半日考えた結果、少女は自分を嫌っているという結論に達したからであった。憂鬱な気持ちのまま帰路についた。

 
 少年は歩いてるうちに後悔の念が沸いた。ダメ元でも渡すだけ渡せばよかった。どうせ受け取って貰えないなら、気持ちだけ伝えればよかったのではないか。いろんな考えが少年の頭を巡った。

 そんなとき、少年の目に憧れの少女の姿が映った。少女は帰る方向が違うはずだった。なぜここにるかはわからなかったが、少年はチャンスだと思った。
 チョコを渡せるように少女に近づいた。そして、話しかけた。

「……さん、あのちょっといい?」
 少年の声は掠れてうまく喋れなかった。しかし、少女は振り向いてくれた。


沈黙は数秒、少年は意を決して、声を出した。
「あの、これ良かったら受け取ってください」
「良かったら、これどうぞ」
 少年の声に少女の声がかぶった。少女の手には、クラスメイトに渡していたものより一回り大きい箱が握られていた。




執筆日:2011-02-10
公開日:2011-02-13
加筆修正日:2011-02-13
執筆者:元伊六
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