about?

・更新未定です
・SSNのSSは二次創作のことではなく、ショートストーリーのことです
・当サイトは完全オリジナルの短い小説のみ公開しております
 とあるオフィス街。すでに定時は過ぎていたが、灯りの漏れる窓がいくつかあった。この街が闇に落ちるにはまだ少し早い。
 それでも既に闇に包まれた部屋の方が多かった。そんな闇色の窓を眺める女性が1人いた。

「はぁっ」
 と、ため息ひとつ。彼女自身はまだ灯りの付いた部屋の中にいた。いわゆるサービス残業というものだ。窓の向こう、正面のビルのとある部屋の窓に目を向けても、すでにそこに灯りはない。生命が感じられなかった。つい、半刻前まで在った存在感は消えていた。

「あたしも早く帰りたいなぁ」
 部屋には女性1人しかいなかった。薄情者とすでに帰った先輩や同僚に毒付いても、聞いてくれる人すらいない。机の上の携帯もただの置物状態だった。

「今日は早く帰りたかったのに。思い返せば毎年こんなのばっかり」
 女性にとっては、いわゆる記念日だった。おそらく一生で一番多く巡ってくる記念日。これで何度目か数えるのをやめて数年経つ彼女でも、やっぱりこの日は特別な日だった。誰かと一緒に過ごしたいと思うくらいには。

 もともとは予定があった。が、それは女性が自らキャンセルした。いつ終わるかわからない残業のせいだった。いつまでも待たすわけにはいかない。『残業することになったから、今日は無理。ごめんね』とメールを送ったのは、もう数時間前。

 ふと、彼女は窓の外に目をやった。が、灯りの数はさっきより減っていた。
「やっぱ、あいつはもう帰ったよね。メールくらいくれればいいのに」

 女性は携帯に視線を落とす。受信ボックスの一番上にある『同じく。タイミングが合えば一緒に帰ろう』と書かれたメールを見ていた。受信したのは数時間前。
「ばかっ」
 と漏れた言葉は、目から液体が溢れないようにするためか。

 女性は時計を見る。日付が変わるまでそんなに時間は残ってなかった。仕事はまだまだ残っていた。キーボードを叩く手に覇気はない。『今年もまたいいことのない一日だったな』と、打ち込んでいた。

 女性はあわててそれを消した。と、そのとき携帯が音と光を発しながら震えだした。

「ふぇっ!」
 女性は小さな悲鳴をあげた。受信者は、さっきから何度も名前を見ている相手だった。さっきまで受信ボックスの一番上にあった名前と同じ。
 
 メールには『窓の外を見て!』と、だけ書かれていた。
 さっきから何度も見てるんだけど、と苦笑しながら女性は窓の外に視線を移す。
 
 苦笑は消えた。息を飲む音がした。女性の頬には液体が伝う。
 隣のビルの窓から灯りが漏れていた。さっきまで見ていた部屋だけじゃなく、いくつもの部屋の明かりがついていた。まるで文字を描くように。
 
『Happy birthday to ......』





執筆日:2011-09-19
公開日:2011-09-19
執筆者:黒井遊離
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